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アイドルな彼女

  • ちなみ
  • 2017年1月31日
  • 読了時間: 5分

(ライター企画 テーマ「アイドル」)

 私が小学3年生の頃に仲の良かった彼女は、10年経った今、アイドル活動をしている。  彼女はあの頃から既に芸能界に属するのにふさわしい容姿を持っていた。もうそれはそれは顔が小さくて可愛いのだ。顔の面積に対してそれは贅沢だろうと思わせるほどの目の大きさ、外国人しかあり得ないと思っていた鼻の高さ、無駄な毛は生えていないくせにまつ毛だけはとにかく長く、人間というよりも人形、、、そうだ、彼女は人形よりのギリギリ人間くらいの存在だった。もちろん顔だけでなく手足は細長く髪も艶があり、さらに肌の色・質感までもが、当時まだ幼かった私もうらやむほどの美しさだった。なりたい、と何度も思った。それだけではない。彼女の持つ社交性も半端ではなかった。学校の先生全員と仲が良かったり周りの友達の親と何十分も話していたり、何より、人見知りで話し下手な私の心をすぐに開かせたのだ。こういう子が芸能界に入ったりするんだろうなあ。ぼんやりそう感じることが少なからずあった。そして本当にそうなった。  やはり生まれ持ったものが人生を決めるのだ。芸能人になる人は生まれた時から芸能人の気質があり、そういう人がドラマの主人公として描かれたりするのだろう。可愛いだけではない、そういっ た性格も組み合わさることで一般人がアイドルに変わるのだろう。  アイドルになった彼女は定期的に東京に行くようになり、いつのまにかそのまま東京へ引っ越していた。中学を卒業しても近所のお祭りなどで会うことがあったが、それも年を経るうちに無くなっていった。そして去年の冬、私は不意に彼女と遭遇した。それはカラオケボックスの、画面の中だった。よくあるあれだ、「DAMチャンネルをご覧の皆さま、こんにちは!、、、」的なあれで遭遇したのだ。私は思わず、隣で曲を探している友人に構わず雄叫びをあげた。まず何よりも失礼ながら、そんなに売れていたのか、と感激してしまった。アイドル、といってもテレビで観たことはないし大学の友人は誰も、彼女の所属しているアイドルグループを知らないし。アイドルに詳しいわけではない私が、売れていないと捉えてしまうのも無理はないだろう、とここで自分自身に言い訳をしておく。  と、まあ一旦取り乱した後に落ち着いて画面を見る。すると私は気付くことがあった。私が彼女と仲が良かったあの頃とは、彼女が別人に見えた。もちろん10年分の成長はしているが、顔は何も変わっていないのに。しかしそこに映る彼女の表情が完全に、芸能人だった。遠くなりすぎた存在だと実感し、私は少し複雑な気持ちになった。あの頃とは違うのだと、画面越しに微笑む彼女に言われているような気がした。いやーしかし、可愛いなあ。やはりとにかく可愛い。前よりもちょっとチャラくなった気がする、5人グループのうち1人だけ茶髪だからか。それにしても髪長すぎだろ伸ばしすぎじゃないか。どれもこれも事務所の戦略なのか、、、あれ?私は彼女と数年会っていない、言わば他人であるのに、気付けば親のような目線で彼女を見てしまっている。なんとも図々しい自分にほんの少し嫌気がさす。頑張ってるんだなあ、応援してるよ!くらいでいいはずなのに。そういえば、有名人になると親戚が増える、というのを昔誰かに聞いた気がする。やたらめったら関わろうとしたり、周りの人間に自分には有名人の知り合いがいると自慢したり。こういうことか。ほとんど関わりがないのに、ほんの一片繋がっているだけで私は関係者だと思いたくなるこの気持ちがそれの正体なのだろうか。そうなると、こんなに意地悪いのは私だけではないのか、と安心してしまったりする。一般人の誰しもがきっと、有名人への憧れを心のどこかに抱いているのだろう。  そうこうして胸いっぱいに邪念を溜めているうちに画面から彼女の姿は消えて、今月の新曲ランキングに映像が切り替わっていた。ああ、もっと純粋に彼女を応援したい。ひがまず、勝手に周りに、自分が凄いかのように言いふらさず、心の中で穏やかに応援したい。そうだな、次に見かけたときは映像でも写真でも、もちろん直接だとしても、純粋な心で労いの言葉をかけよう。私は決意し、友人とあと数曲歌ってカラオケボックスをあとにした。そして会計を済ませていると不意に壁のポスターに目がいった。そこにはまたもや、こちらを向いて微笑んでいる彼女がいた。おーっと、意外とすぐに出くわしてしまった。まだ今日中ぐらいは羨ましいなあなんてひがんでおくつもりだったのに。もう少し心の整理をしたかったのに、、、。ああ、気づけばまた自分自身に言い訳をしていた。もうやめないと。さっきの決意を守りたい。涼しげな顔で会計を済ませている友人は、私が今真横でこんなに頭を動かしているなんて思ってもいないだろう。よし、純粋な気持ちで労いの言葉、、、。私は独り言のように小さく「がんばれ」と言った。  「おう、ありがと」  真横から返事が聞こえた。お前じゃねーよ。しかし、それでも少しだけ清々しい気になった。ここは決して芸能界じゃない、ただの平凡な社会だ。それでもここには、届かないはずの声援を勝手に、確かに受け取ってくれる友人がいる。もう少しここにいよう。違う世界を羨むよりも、今いる場所をを楽しむべきなのだ。 そう感じた後にもう一度目に入った彼女は心なしか、10年前のあの頃と同じ表情をしていた。


 
 
 

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